Back Story : kZm「27CLUB feat. LEX」MV

Text & Edit : Kentaro Okumura

Photography : Yutaro Yamaguchi

Behind the scene___10.19.2020

友人の自死、ブラックホール、逃れられない人生―。kZmとLEXによるコラボレーション・トラック「27CLUB feat. LEX」のミュージックビデオのバックストーリーを、監督した堀田英仁に訊く。

着想と企画のコア

いつも曲を聴いた瞬間の初期衝動や直感をベースに企画を作っています。kZmくんからこのお話をいただいて、曲を聴いたときイメージとして出てきたのは「ブラックホール」、「黒い水の中で人の手がもがいている様子」、そして「細長いトンネル」の3つでした。ブラックホールはそこへ吸い込まれていくというイメージで、長いトンネルは抜け出せない人生。

もう1つ大きかったのは、「27 CLUB」というタイトルからもわかるように、 “suicide”というテーマをどう描くか、ということ。こういうテーマはダイレクトに描くと、もがき苦しんだりとか、HIPHOP的にはオーバードーズしたりするカオティックな表現があると思いますが、本当に自殺したいと思っている人の気持ちを考えると、安易に表現するべきではない。それに、ミュージックビデオの尺は死を表現するには短すぎます。そんなことを考えるうち、自分の今までの人生と“suicide”の接点だったら自分のテーマとして描けるかもしれない、と思いつきました。

これは自分の体験なんですが、大学時代の仲の良かった友人が自殺したんです。ある大雨の日、彼から「黄色い服を着た人に追いかけられている」と電話が来て。その時は仕事で忙しくて「警察にまず連絡したほうがいいよ、あとでかけ直すから」と伝えて切った。それが彼の最期の電話でした。

 “黄色い服を着た人” が実在したのか、彼の妄想だったかは僕にはわかりませんが、彼の中にはそういう世界が存在していたんだと思います。これは結構前の出来事ですが、「黄色い服を着た人が追いかけてくる」というイメージを、いつかどこかで映像に落とし込まないといけない、とずっと思ってきたんです。

ちなみに「黄色い人」は、ギリシャの名匠のテオ・アンゲロプロス監督が、重要なシーンでさりげなく登場させているモチーフです。でも毎回、その意味は説明されません。今回のMVで登場する「黄色い服を着た人」も、僕の中では意味があるけど、見ている人には伝わらない。そういう、何かを想起させるような記号、という意味ではテオ監督とリンクしています。

もちろん、自殺しないほうがいいに決まっています。でも、僕は死に対してフラットに描きたかった。だからMVの最後では、2人は(人間としては)死んでいるけど、植物になっているんです。自然の循環として。

撮影技法と美術

こういうテーマはギミックにいくと魂が入っていない感じがするので、CGは一切使っていません。トンネルのシーンはグリーンバックで背景を合成したほうが疾走感が出るんでしょうけど、あえて歩行者用のトンネルを探して、レールと移動車を使って撮影しています。歩行者用なのは、臨場感を出すため。車が通る広いトンネルだと臨場感がでないんです。

後半に登場するブラックホールは、美術で3mの黒い円を作ってもらいました。このブラックホールは、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の『世紀の光』のラストシーンやアニッシュ・カプーアへのオマージュ。『世紀の光』では病院の中の排気口にカメラがトラックインして、それを3分ほどの長回しで見せるんですが、画面の中が真っ暗になって、ブラックホールのように見えるんです。このシーンが本当に大好きで。20歳くらいの時に御茶ノ水のアテネ・フランセ文化センターの特集上映で観て、かなりくらったのを覚えています。

理想のミュージックビデオ

僕にとっての理想のミュージックビデオは、アーティストがかっこよく撮れていて、何度も観たくなるようなもの。まずこれをクリアしていることが前提です。

そもそも音楽には映像がなくても、各々が自分の記憶やイマジネーションから映像を引っ張ってこれるような力があります。登下校で聴いた曲なら、その当時の心境を思い出したり。なので、勝手にその音のビジュアルの自由を奪ってしまうことが正しいのか、いつも悩まされます。聴き手それぞれのイメージに任せた方が良いんじゃないか、って。それでも、ただ歌うシーンをダイレクトにカッコよく撮るだけじゃ満足できない方たちが僕に頼んでくれていると思っていて、その期待には応えたいわけです。

僕はドキュメンタリー的な切り口を大事にしているつもりなので、その映像の中にどう“社会”が垣間見えるか、人を撮って人の先を描けるか、が大事なテーマです。その上で、曲やアーティストの世界観とはまた違った側面というか、一つの見え方として提示できたらなと思います。曲に映像が合わさったとき、掛け算が起きるといいですね。

堀田 英仁

映像作家。1988年生まれ、東京出身。明治大学卒。作る作品は主に、ドキュメンタリー、ファッション、MV、CMなど。大事にしていることは、ヒトを掘り下げて社会を描き、それを伝えること。最近の作品は、『”BAD HOP WORLD” Release Online Live』のライブ演出や、CHAI『Donuts Mind If I Do』MV、Awich『洗脳 feat. DOGMA & 鎮座DOPENESS』MVなど。

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