CALM & PUNK GALLERYにて11月7日まで開催されたペインター/イラストレーターのanccoによる個展「MILK LAND」は、彼女がつくる喜びに出会ったネット上のお絵かき掲示板の世界と、酪農農家で育ったルーツが交差する、曰く「豊かな自然を横目に、イマジネーションを反芻させたパラレルワールド」。セラミックや3Dスカルプチャーなど新しい表現媒体にも挑戦した本展のバックストーリーを尋ねた。
立体物などの新作も交えた本展を開催するまでのいきさつを教えてください。
この展示で発表した作品集『MILK LAND』は1年ほど前から作っていたんですが、リソグラフの色調整などで制作期間が長びいていて、完成するためには発表する場を決めないとと思い、展示の場所を探してきました。そのタイミングでカムパンさんにお声がけ頂いて。 4年ぶりの個展だし、ただ本の発表だけじゃなく何かチャレンジをしてくれたらベストだということで、いつかやってみたいと思っていた陶芸、立体、3Dモデリング、パステルなどの素材で新しいことをやってみることにしました。
シルバニアファミリーのような起毛したフィギュアは、3Dのモデリングまでは自分で作って、起毛の加工から業者さんにお願いしています。80年代から時が止まったような水族館で買ったサメとタコの起毛したマグネットがあって、裏を見たらこの業者さんの名前が書いてありました。かなり昔からやってらっしゃる業者さんなんだと思います。
陶器の経験は小学生の頃に1度壺を作ったくらいなんですけど、仕組みが3Dモデリングと似ていて。3Dモデリングで使うソフトでは、球体を変形して蝶や椅子などの形を作るんですが、この感覚や技術が陶芸にも活きました。ただ、釉薬がけなどの色付けは焼いて変化するぶん難しかったです。単に色を塗るのではなく、ドロドロに溶けたような変なテクスチャーを作るのが大変で……。サポートしてくれた陶芸教室の先生が作家に寄り添ってくれる、情熱的な優しい人だったからここまで来られました。
ステートメントにもあるとおり、酪農農家に育ったご自身のルーツを意識されていることが展示空間においても見てとれます。牧草やミルク缶はご実家から?
これは実家の牧草ではないんですよ。牧草を置きたいと父に相談したら「今うちで使っている牧草は黄茶色。もう少し高い、いい草なら緑色だし映えると思う」と助言され、ネットで馬用の餌を買ったら1日で届きました。ミルク缶は父の酪農友達が使っていたのを譲ってもらったもの。一つひとつにゆかりがあって、私の原点のような空間になりました。牧草は展示が終わったら親にプレゼントするつもりです。
anccoさんの絵の中には悪魔がいたり、布が破れていたり、部屋の一部が壊れていたりします。色調と裏腹に不穏な要素を仕込むのはなぜでしょうか。
画面を壊したい、閉鎖的な空間を壊したいという欲求だと思います。きれいすぎると面白くないので、空間に何かしらの事件やハプニングを起こしたいんです。あと、牛舎って響きだけ聞くとのどかな牧場をイメージするかもしれないですけど、実際の実家の舎は祖父の代からの古いものなので天井には蜘蛛の巣があったり、木が壊れているところもある。そういうことも要素として影響を受けていると思います。
今回SUB-ROSAで販売するガラス作品「Jello Ghost」の制作について教えてください。
ガラスを作るという話をいただいた時、ドラゴン(※オオクボリュウのあだ名)の作品とは違って用途があるものが最初に思い浮かんだんです。そのため、シルエットは花瓶をベースにするというシンプルなスタートでした。
このガラスの素材がゼリーみたいで、今回展示した作品にもグミやゼリーのような表現があるから、その仲間の一人として「ゼリーのゴースト」にすることにしました。おいしそうですよね。ただ柿崎さん(※ガラス職人。オオクボとの作品でも制作を担当)は大変だったと思います。陶器で使う土なら濡らして保存すればやり直しできるけど、これはガラスだから一発勝負。しかも毎回かなり細かいところに修正を出していたから、一体何度やり直してもらったんだろうっていう……。
色味や色の濃さ、それと「Tinted-glass」の方はグラデーションの加減にもこだわったし、顔だと鼻と口の距離を微調整したり、おしりやフォルムを詰める部分にもかなり時間をかけました。この作品の「終わりどころ」という意味でも、この展示が機能した気がします。家に試作品がたくさんあるので、本当は全工程を見せたいくらいですね(笑)。
「Jello Ghost」は作品の特性から、各色20個限定の受注生産で先着順の締め切りとなる。応募はSUB-ROSAのStoreから。