VIRTUAL ART BOOK FAIR 3D会場設計の舞台裏:萩原俊矢

Text : Kentaro Okumura

Behind the scene___11.21.2020

今秋開催を予定していた「TOKYO ART BOOK FAIR」(以下、TABF)が、名称を「VIRTUAL ART BOOK FAIR」(以下、VABF)としてオンラインで開催され、東京都現代美術館をモチーフにデザインされた3D空間には約230組のアーティストや出版社、ギャラリーなどが集った。本展のウェブディレクターを務めた萩原俊矢が、設計の舞台裏を明かす。

建築チームの木内俊克氏、砂山太一氏らによるスタディ

VABFでは3D空間の館内を歩き回り、オブジェクトをクリックすることでコンテンツが見られるという仕組みになっています。TABFの特性をどのように捉え、この形へ実装したのでしょうか。

最近はさまざまなヴァーチャルの施策がありますが、VRゴーグルと5G回線が行き届いていて、解像度やコミュニケーション速度が現実と変わらないレベルでないかぎり、リアルの代替品としては物足りなさや寂しさを感じるはずです。それならTABFのエッセンスを抽出してデフォルメした方が良いのでは、というところから運営、建築、グラフィック、Webの各チームで議論を重ねてきました。

今回の会場はエントランスに巨大なジャガイモが浮かんでいて、その中に入るとブースがあります。建物を作るというよりも、あくまで「3Dオブジェクトと人がどうインタラクションするか」という視点で議論が進んだところが興味深かったですね。何でもできてしまう3D空間だからこそ「そもそも重力は必要なのか」「ジャガイモなのかマッシュルームなのか?」といった感じで、問いかけ合いながら空間を作っていったんです。とはいえ、ただ商品を羅列すると普通のECと区別がつかなくなるので、「ブックフェア」としてきちんと認識してもらえるような要素は残しました。

7月28日の段階ではジャガイモではなくレモンがモチーフとなっていた

運営チーム曰く、TABFでは出展者のテーブル上のレイアウトに個性が出るところも大事、ということでした。そこでブースに配置できるJPEGのサイズにピクセルで制限を設けて、出展者は作品を並べて画像を好きに作れるようにしています。また、お客さんが自ら気になる商品を見つけていくという能動性も大事にしたかったので、インスタグラムのように画像にタグ付けできるアプリケーションも開発しました。画像の特定の部分に情報をリンク/タグ付けすると、クリックで作品の詳細が読めるようになっています。

リアルのイベントの大きな魅力でもある偶然性は、ユーザー導線を規定するUI設計の思想とは真逆だったのでは? 

道中で寄り道したり、会場で偶然友達に出会ったりするリアルでの体験をヴァーチャル空間で再現するのは難しいですね。出展者とお客さんが直接やりとりできたり、Video チャット上でコミュニケーションできる動線があったりはしますが、やはりプログラマとしてはユーザーにはこちらの想定通りに動いてほしいと思ってしまいがちです。だからこそ「予定調和をなるべく避ける」というのが僕の中の今回のテーマになっていて、その一つの策として「JPEGの上なら何でもしていい」と出展者側がハックできる余地をたくさん残しています。

ソーシャルメディアのようなプラットフォームが成熟するとできる・できないのルールが明確になり、ユーザーの振舞いにも制約が生まれます。今回は開催までの時間が無いことをいいことに、わりとぶっつけ本番で、運営チームも含めて「みんなでこの仕組みの中で工夫して頑張りましょう」という考え方なんです。

ユーザーの行動規範をなるべく管理せず、積極的に委ねていく姿勢なんですね。

そうですね。IDPW* が始めた「インターネットヤミ市」も、インターネットらしい物を参加者が自由に売り買いできる、というゆるいテーマのプラットフォームで、その「インターネットらしさ」の解釈は各々に委ねられています。ヤミ市の出展者の中にはその制約を平気で超えてくる人もいますが、その解釈を知ることで「これはインターネットっぽいのか?」と、インターネットらしさを考え直すきっかけにもなるんです。 今回のVABFでも、こちらの意図を超えてくれる人がいることを信じている部分があって、個人的には「超えてくる人」が一番面白い人だって思っています。こちらが設計しきれていない部分に突っ込んできてくれるというのは厄介でもあり、一番ワクワクする瞬間でもあるんです。

*エキソニモが主宰する、ネットとリアル、双方の空間を使って実験を行うグループ。コンセプトは「100年前から続く、インターネット上の秘密結社」。「インターネットヤミ市」等、不定期で様々なパーティを開催する。萩原も主要メンバーとしてイベントの企画・運営・アプリ開発などを行っている。

クリエイティブ・コモンズの概念を作った情報学者のローレンス・レッシグは、著作『CODE』の中で「コードは法である」と言っています。インターネットやコンピューティングの世界では、プログラミングコードがユーザーのできる・できないを支配的に決めてしまう可能性があり、それは法律のようだと。世界がギスギスしている今、僕がコードを扱うのであれば、のびのびした世界観でやりたいなと思ったんです。特にこうしたイベントのときは、どこまでユーザーに委ねられるか、一つのコードが制約を増やすことにならないか、かなり意識します。

特にここ数年のインターネット(≒SNS)では亀裂が目立つように思います。

感覚的には完全に同感ですが、ある意味それは「成熟した」とも言えるのではないでしょうか。コードの話の続きとして言うと、例えば100階建てのビルの1階がパブリックなスペースで、そこに人が集って遊んでいます。エレベーターに乗ると、1階と100階以外のボタンは押せない。しかし、外から見ると全ての階に電気がついて誰かが一生懸命働いている……。そんなビルがあったら、めちゃくちゃ不気味だと思いませんか? いまのSNSって、まさにそんな感じですよ。僕はもう少しピュアに、表現したいと思っている人に寄り添って、一緒に生み出すようなささやかなウェブデザイナーでありたいと思っています。

設計者としてオススメのVABFの楽しみ方は?

体験する側もバーチャルの設定に最適化して楽しんでもらえたら嬉しいですね。例えば、VABFでZoom飲み会をするのはどうでしょう。普段は会えない遠くの友達や海外にいる友達とVABFで集まって、画面共有機能を使って、会場を一緒に回るんです。いいつまみになると思いますよ。

萩原俊矢

1984年神奈川県生まれ。ウェブデザインやネットアートの分野を中心に活動し、企画から実装・運営までウェブにまつわる仕事を包括的に行う。2015年より多摩美術大学統合デザイン学科非常勤講師。IDPW.org正会員として文化庁メディア芸術祭新人賞受賞。ブックイベント TRANS BOOKS 主催メンバー。

https://shunyahagiwara.com