静岡出身のシンガーソングライター、諭吉佳作/men。少し低めのトーンで人を惹きつけるヴォーカルと、自由に動き回るメロディラインをはじめとした意表をつくソングライティング。いわゆるポップ・ミュージックの枠には収まりきらないひとくせある個性が、ポップのフィールドでにわかに注目を集めている。特に、「形而上学的、魔法」を皮切りとしたでんぱ組.incへの楽曲提供はひとつのブレイクスルーと言っていい。そんな彼女に、リモートインタビューを行った。
GarageBandを使った作曲で知られる諭吉佳作/men。そのきっかけは、母からの勧めだった。
「地元のオーディションに出ようと思ったときに、楽器ができるわけではないので、練習するより打ち込みのほうが早いんじゃないかと思って。その頃、母が『スマホでも(楽曲制作)できるっぽいよ』と勧めてきて、Garagebandの存在を知りました。作曲自体は、小6くらいのときからピアノを弾きながらつくったりしていて。弾けるといえるほどではないんですけど。まわりに発信することは考えずに、つくりたかったからつくっていたんです」
そんな母親(父親も)は特に熱心な音楽好きというわけでもないそう。「むしろ私が音楽をやりはじめてからもっと聴くようになった」とか。リスナーとしての原体験には、意外な名前も挙がった。
「真面目に音楽を聴きはじめたのは、小学6年か中学1年くらい。それ以前は、日常にあるものとして聴いてはいるけれど、大好きというほどでもなく。ボカロとかを聴いてたんですけど、それもボーカロイドというキャラクターに惹かれていた部分がありました。
歌うのが好きだったので、音楽を聴くなかでもヴォーカルを聴いているという感覚が強かったです。Corneliusの『Mellow Waves』(2017年)を、おそらくリリース当時に聴いて、 “ヴォーカルを聴くのではない聴き方” を初めて認識しました」
2003年生まれの諭吉佳作/menは当時14歳。Eテレの人気番組「デザインあ」経由でCorneliusに興味を持ったそうだ。ポップスの形式と絶妙な距離感を保ったソングライティングについては、次第にその方法も変化してきたという。
「最初の頃はAメロ・Bメロ・サビまで歌詞を書いたらメロディをつけて、できたメロディの音の文字数にあわせて2番を書く、みたいにしていた。最近は歌詞とメロディと編曲を同時にやっていて、そうすると流れでどんどん違うメロディができちゃう。一応、サビっぽく、とか、盛り上がるところを、と思ったりもするんだけど、サビなのかサビじゃないのかみたいな感じになりがちで、サビが全然来なくて、最後にまとめて来ちゃうみたいなこともあったりして。今は、思いついたものを思いついたタイミングで入れる、みたいな作り方をしているのかもしれない」
ターニングポイントと言うべき、でんぱ組.incへの楽曲提供についてはこう語る。
「TwitterのDMに連絡がきました。やりとりの最初のほうはでんぱ組の曲だとはわからなくて、話をよく聞いてみたら『でんぱ組の…』ということで。ピンポイントで好きなアイドルだったので、『なんだ?!』と凄く驚いた記憶があります。(「形而上学的、魔法」については)たしか、サビに直しがあったくらいで、Aメロ・Bメロはいま音源になっているものと同じメロディだったと思います。ほぼほぼ、そのまま通ったかたちです」
でんぱ組.incに提供したのは、「形而上学的、魔法」、「もしもし、インターネット」、そして根本凪のソロ曲「ゆめをみる」の3曲(いずれも2020年作『愛が地球救うんさ!だってでんぱ組.incはファミリーでしょ』に収録)。こうした仕事はアーティストとしてのスタンスにも変化をもたらした。
「(楽曲提供を経て)必ずしも自分が絶対に歌いたいみたいな気持ちはなく、そこに固執しなくなってきた感じはあります。なんだろうな……。歌うことが音楽活動のメインだと思っていた最初の頃と比べると、自分が音楽をやるというのは別に歌うということだけじゃないと思って」
音楽だけでなく、ライヴのステージ上で身につけるアクセサリーなども自作。つくることへの関心は音楽にとどまらない。
「工作とか、なにかをつくるのが全般的に好きでした。自分が好きなものや使うものはなるべくつくれるほうがうれしい。音楽もそのテンションで作り始めたんです。アクセサリーも自分でつけるなら自分でつくったほうがうれしいし、一個しかないというありがたみがあるので(笑)。
自分の曲も、提供とかコラボとかもなるべくいろんなことができたらいいなと思っているし、音楽以外の部分でも、あまり一つのことだけじゃなく、いろんなことをやる人間でいられたらいいなと思っています」