写真には期待しない : 柘植美咲

Photography : Misaki Tsuge

Text : Kentaro Okumura

Interview___10.3.2020

「ミサキがカメラをとおして被写体への愛を示す方法が素晴らしいと思います。通学から帰宅まで、その間の様々なことを捉えています。」とはチャド・ムーアの。今年で20歳。写真家・柘植美咲に、自身と写真との関係を訊く。

写真はずっとフィルムで撮っているのですか?

今はフィルムだけです。iPhoneとかで撮ったりすることはあります。

最初に手に入れたカメラは?

高校生になる時に貯めたお年玉で買ったデジタルです。(サイズが)大きくて学校にはもっていけなかったから、体育祭とか遠足とか、イベントごとに持って行って撮っていました。その写真を友達に送ったら、気に入ってくれたんです。私としては、ピンときていなかったんですけど。

その写真を、SNSにあげるようにしていたんですね。そうしたら、SNSを通してフィルムをやったら?って勧められて。高校2年生のときに、中古のフィルムのハーフカメラを7000円で買いました。フィルムカメラはギリギリ(ポケットに)入ったから、学校に持って行って。現像してみたら、ほぼ感光して写っていなかったんですけど、自分が撮りたかった感じの写真になっていたんです。わぁ、これだ!って。

とにかく「写っている」というのが楽しかったんですよね。持っていたデジタルは売っちゃいました。データも消してしまって、今手元にはほとんどないです。

写真の舞台だった高校生活が終わったことで、撮る対象を失ったのでは?

だから今、苦しんでいるわけです。私は東京の人でもないし、東京にアクセスしやすい場所に住んでいるわけでもない。こっち(※柘植は現在三重県在住)を始発に出たって、東京に着くのは8時半とかだから、早朝の撮影には参加できないし。

高校を卒業したときには、写真の仕事があることも知らなかったんです。好きなものが撮れなくなるから写真は辞めようって思ってましたし、友達にもそう言ってました。でもなぜかポカリスエットの仕事で写真を撮ることになって、写真のお仕事があることを知りました。もちろん「写真を仕事にしている人」がいるのは知っています。でもそれは自分とは違うというか、芸能界のように感じていました。

高校を卒業してからは、地元の看護大学に入りました。夢の場所と現実を行き来しているようでしたね。高校卒業したら写真を辞めると言っていたのに、なんでこんなに撮りたいんだろう…でも、今いる場所では好きな写真が撮れないし…って、撮りたい気持ちと現実との矛盾が辛かったです。来月も(大学を)辞めようと思ったら、本当に考えよう。そんなふうに毎日を過ごしていました。

やばいなと思ったのは、考え事をしすぎて寝れずに迎えた朝。部屋の一角に差し込んだ光を見て朝だって気づいて、クロックスを履いて外で写真を撮ったら、それが夕方みたいだった。で、そのまま寝て、大学(の授業)は終わっているから、バイトに行く。そういう日が続くことがあったんです。毎日泣いていました。本当にどん底ですよ。まぁ、今もどん底かもしれないけど。

2018年くらいの話です。昨年、前期の試験を受けて辞めました。退学届を出した日、後期の試験結果のボードとか、ロッカーの鍵を撮りました。

写真を撮ることは自身のメンタルにどんな作用を与えますか。

撮れていない時のほうが私にとってはいいんですよね。苦しいし、体調も悪くなるけど、きっと私は苦しい状況じゃないとだめなんだと思う。それに、(写真に)期待していないですし。明日写真が撮れなくなるって毎日思っています。撮れなくても仕方ない、という覚悟があるというか。撮れているときに楽しくても、幸せを感じることはないですね。

今取り組んでいるプロジェクトは?

親戚がクリーニング屋なんですけど、その写真を撮っています。こういう個人的なプロジェクトは誰にも求められないから、期待することもない。だから高校の時と同じ気持ちで撮れます。撮っていて楽しいですね。

なぜクリーニング屋なのでしょうか。

個人の(クリーニング屋)はいつか無くなるかもしれないから、撮れるうちに撮りたいと思って。あとこれは言葉にできないし、写真にも現れないけど「普通じゃないなにか」っていう、すごく抽象的なおもしろさがあるんです。今はその正体が何かよくわからないから、いつか見つけられたらいいかな。

Misaki Tsuge

2000年 三重生まれ

https://33ki2ge.tumblr.com/

Twitter / Instagram @misaki_tsuge