Installing : エキソニモ 〈UN-DEAD-LINK アン・デッド・リンク〉

Text : Kentaro Okumura

Photography : Koichi Takagi

Behind the scene___10.3.2020

東京都写真美術館で10月11日まで開催されているアート・ユニットのエキソニモによる初の大回顧展〈エキソニモ UN-DEAD-LINK アン・デッド・リンク〉。24年間の活動を振り返りながら「インターネットアートへの再接続」を図った彼らの胸中を訊いた。

本展を「インターネット会場」と実際の会場に分けた意図は?

千房けん輔:本展の開催は3年ほど前から決まっていたんです。それがコロナウイルスの発生によって、展覧会が開催できるのか、そもそも日本に行けるのかも不透明になり、オンラインでのみの開催にしようとすら考えていました。でも美術館側も実会場なしというのはさすがに厳しいということで話し合った結果、インターネット会場と実際の会場の両方での開催としました。結果的に、当初の倍ほどのボリュームでの展覧会になっています。

赤岩やえ:インターネット会場はアーカイブの機能を持たせていて、今までの活動を遡ってタイムラインで見せ、最終的に美術館に収めることを目標に準備しています。この会場では回顧展というかたちで、時間と作品を読み解くキーワードを地に這わせたケーブルで接続しながら、1996年から2020年までの作品の中から20作品を用意しました。2点ある最新作は作品そのものが見れますが、昔の作品は再現できないものもあって、記録的な側面がメインの作品も混ざっています。

なぜこのタイミングで回顧することを決めたのでしょうか。

赤岩:本当は常に新作を展示したい気分なのですが、そこは美術館の要望もありますから。話し合いを進めて回顧展にしようかと決めかけていた頃に、偶然コロナによってインターネット上のアートや表現の可能性が再注目され始め、自分たちでも立ち返るようになって。もともと「回顧展」にはあまり乗り気ではなかったのですが、この機会に自分たちを振り返りつつ、もう一度インターネット上の表現の可能性を探るというのはいいのかもしれない、と徐々に気持ちが乗っていったという感じです。

千房:本展のタイトルも、2008年にスイスのバーゼルでの個展で展示したタイトル「UN-DEAD-LINK」から来ていて、その展示の時に発表した作品を作り直して展示しています(「《UN-DEAD-LINK 2020》)。

「アン・デッド」という単語の、ゾンビのように復活するイメージや感覚がロックダウン以降と呼応して、本展のタイトルとしても急浮上しました。

ニューヨークでパンデミックを経験したことは、作品に強い影響があったのでは。

赤岩:かなり深刻でしたからね。もう本当に家から出れなくて。ロックダウン下で唯一散歩に行けたのは、うちから歩いて5分ほどの場所にある巨大なセメタリー(墓地)なのですが、毎日のようにそこへ行っていた体験を通してできたのが新作の《Realm》という作品です。

千房:周囲にも感染者や死者が出ましたし、家の外では毎日救急車が走り回っているような状況で、発生から3か月ぐらいはかなりピリピリしていました。とはいえ、私たちはインターネットを使った作品が多く、リモートでの仕事も多いため、アーティストの中ではあまり影響を受けていないほうではないでしょうか。もちろんキャンセルされたアートフェアや展示もたくさんありますが、逆にインターネットを絡めた企画のお誘いをいただいたりと、すべてが断たれたという感じでもなくて。むしろここからどんなふうに世界が変わるのだろう、とわくわくする部分もあります。

赤岩:もともとネット寄りですし。例えばオンラインの過ごし方で言うと、これまでにも私たちが主宰するIDPW(アイパス)というグループ* では色んなトライをしてきました。その一つである「World Wide Beer Garden」という企画は、様々な都市の屋外やオフィスに居る人をオンラインでつなげて飲むという、今でいう「zoom飲み」のような実験でした。また「Internet Bedroom」という企画では、インターネットで世界中の「寝ている人たち」を中継しました。インターネットは活動している人しかいない「昼」の空間。常に昼でつながっているこの場所に、「夜」を持ち込む=寝る行為を中継しよう、というねらいでした。いずれも「リアルな空間での行為をネット上に持ち込む」という発想に基づいています。

*エキソニモが主宰する、ネットとリアル、双方の空間を使って実験を行うグループ。コンセプトは「100年前から続く、インターネット上の秘密結社」。「インターネットヤミ市」等、不定期で様々なパーティを開催する。

インターネットのない世界を経験したことのない世代の人たちにとって、本展がどう映るのか楽しみです。

赤岩:面白いのが、11才の子ども学校が完全にリモートラーニングになって、友だちと会えなくなったのですが、そこで彼らがとるオンライン上のコミュニケーションがゲームなんです。オンラインゲームは今やソーシャルの場所になっていて、アバターは自分の一部でもある。私たちのように「リアルにある物や行為を、オンラインに持ち込む」という発想ではなく、リアルと地続きの場所を新しく作るんです。アプローチが全く違います。うちの子のインスタグラムでは、彼女が好きな〈マインクラフト〉というゲームの中にある(架空の)自然と、近所の緑豊かなセメタリーで接した(リアルな)自然が交互に出てきます。

千房:Unity(3Dの開発環境)で構築したインターネット会場で作品の準備を進めているときに、試しに子どもに入ってきてもらったんですが、いきなり(ネット会場の中の)僕の頭の上に飛び乗って、壁の上へとポンポン飛んでいって(笑)。僕らとは全然違う身体感覚を持っているというか、肌感覚でどう動けばいいか分かるんでしょうね。こういう人たちがこれからの世の中を作っていくんだなって思います。

だから、僕たちが時代にキャッチアップしているという感覚は全くなくて、むしろ僕ら旧世代から今の人たちに「昔のインターネットってこんな感じだったんだよ」と見せている、くらいの感覚もあるんです。大きなモニターや複雑な機材といった、現在のインターネット環境とのギャップも感じてもらえると嬉しいですね。