夢は不可能だから永遠に夢。「計画」ならある:空山基

Interview: Kokushin "Koke" Hirokawa

Edit: Kentaro Okumura

Behind the scene___2.19.2022

活動10周年を迎えたThe Weekndと、空山基による大規模なコラボレーション。その目玉のひとつが、空山がクリエイティブ・ディレクターを手がけ、古屋蔵人が監督、KhakiがCGを担当した「Echoes of Silence」のミュージックビデオだ。同曲は、The Weekndの3rdミックステープからのタイトル・トラックとして2011年にリリースされたもので、本編では荒廃した近未来を舞台に、ロボット化したThe Weekndと空山のセクシー・ロボットの物語がフルCGで描かれている。本稿は、MVにあわせて公開された舞台裏映像「Echoes of Silence (Behind The Scene Documentary)」における空山への取材のアウトテイクを含めて再構成したものである。

「自己発信」なんていうのは、ほとんどの場合勘違い

約2年の制作期間を経て公開されたThe Weekndのミュージックビデオ「Echoes of Silence」が完成しましたね。仕上がりについてはいかがですか。

ロボットの上に雨が落ちるほんの一瞬のシーン(2:39あたり)があるけど、あれなんか大変だったと思うよ。もうちょっとアルミの鋳型っぽく光ってるといいんだけど、動かすと光を拾えないし、これ以上は再現できるソフトがないからしょうがない。今のレベルではベストだね。これだけ時間とお金をかけてよくやったと思う。私の中でもだけど、ミュージックビデオの中でも金字塔になるかもしれないよ。マイルストーンに。

The Weekndは過去に空山さんの作品を購入していたり、空山さんが彼の肖像画を描くなど以前から交流があります。彼に自身と共通する部分を感じることはありますか。

たぶん、私と彼との共通点はアカデミズムを通っていないことだと思う。独学で、先生がいない。先生を乗り越えるって、ものすごいエネルギーが要るからね。アーティストじゃなくても、たとえば男の子だと(歳を経て)父親を乗り越えるんだけど、父親を否定するのって大変なの。そういう意味では、先達がいないのはすごくやりやすいことでもある。私はルネッサンスだろうがなんだろうがクソだと思ってる。ダ・ヴィンチだってデッサンは狂ってるし。もちろん、いいものは尊敬していいけど、アカデミズムに洗脳されていなければ、非常にピュアに作品を見れるはずなの。ありとあらゆるアカデミズムはそんなに信用しなくていいと思う。

今日は(映像の)取材を通して空山さんがどのように1日を過ごしているのか、少し知ることができました。率直に言って、知名度に比べて意外なほど謙虚な生活をしている印象を受けたんです。

極めて堅気で普通の生活をしていますよ、変わったことはない。朝起きて、顔を洗って、ションベンして、猫のうんこ片付けて、ご飯食べて、あっちのアトリエに行ったり、こっちのアトリエに行ったりして、そのとき一番面白がってる絵をいじくって、それが終わったら帰ってご飯を食べる。最近ようやく昔みたいにいろんなお誘いが来るようになったけど、やっぱり人と話しをするのが一番面白いね、刺激がいっぱいあるし。だから対人関係が一番好き。そういう地味な生活をしています。

というのも、やっぱり受け手の立場にならないと。「自己発信」なんていうのは、ほとんどの場合勘違いなの。作品を通してコミュニケーションをしないと、一発屋にはなれても、サステナブルな作家にはなれない。私の基本は「直球」なんだけど、今の現代アートって変化球ばかりでしょう。一発当てたい画廊だとか、画壇だとか、コレクターだとか、外的報酬で動いてる人たちばっかりじゃん。

外的報酬ですか。

外的報酬っていうのは、お金や社会的な地位や名声のようなもの。その反対が内的報酬で、羽交い締めにされてもやれちゃうようなこと。「たとえ刑務所に入れられても、殺されそうになっても、これを一生続けます」っていうような。そういうアーティストはすごく少ないでしょう。私は人混みが好きじゃないからアート・バーゼルとか行ったことないけど、(そういう場所で)全員に疑問を投げかけてみたいね。「お前、このスタイルを一生続ける? ほんとに続けられる?」って。

他者の評価に惑わされることなく、謙虚にコツコツ努力して……

(遮るように)いや、私は努力したことないんです。好きなことしてると続くんです。好きなことをずっと続けたら、後ろには1本線が引ける。私はアトリエが一番落ち着くんですよ。絵を描いていると落ち着くし、平和で、幸せで、エクスタシーなの。「お正月までアトリエに来るのは大変ですね。お仕事してるんですか」って言われると「ああ、仕事です。病気ですから」って返すけど、ほんとは好きで好きでしょうがないことしてるの。仕事なんて思ったこと1回もない。まぁ、たまにリクエストで描くときは「仕事」って思うけど。

The Weekndも内的報酬でやってるだろうから(アルバムが完成して)めちゃめちゃ嬉しかったと思うし、これだけ大きなプロジェクトにキャスティングしてくれたことは私にとっても誇り。夢を実現させてくれたよね。このプロジェクトをベースに、もっと面白いことができると思う。よく「夢は?」って聞かれるけどさ、夢は不可能だから永遠に夢なの。「計画」ならある。その計画を実現させるための、縁の下の力持ちになってくれると嬉しい。

有名な話ですが、The Weekndは17歳で高校をドロップアウトし、一時はホームレスのような生活を送っていた過去があります。彼のキャリアを俯瞰すると、どのような状況になっても諦めない姿勢はやはり大切なんだと、改めて思います。

当たり前だよ。それをやってない人はOne of themで消えていけばいい。一生延々と一つのことをしていれば、そのうち認められますよ。若い頃は直球を投げてると、分かりやすい絵だとか「分かりやすいことやってて楽しいの?」って言われるだろうけど、例えば直球でも180キロを投げられたら、それは個性になるの。そこに到達するまでにはものすごいエネルギーが要るんだけど、好きだったらやれるの。好きじゃない人が努力すると、途中で辞めちゃう。直球で勝負しようとしている人を小馬鹿にする人たちはカスだよ。好きなことを死ぬまでしなさい。それだけでいいんです。

この記事は翻訳されるので、活動10周年を迎えたThe Weekndに対して、なにかメッセージがあればお願いします。

彼のほうがてっぺんにいるんだから何も言えないけど、10年で天下取ったなら、今度は宇宙のトップになりゃいいのよ。宇宙人が地球に来たとき、宇宙人をも唸らせられるぐらいのことを目標にしたら、次のステージにいけると思う。過去の10年なんかどうでもいいです。そこにしがみついてたら面白いことなんてできないし、マーケティングして「こういうのが前に売れたから、こういう方向で行きましょう」とか言い出すと、もうおしまいだよね。